【出展リンク】http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon4/honbun.pdf
(出展元 :民主党HP 政策)
科学技術基本政策策定の基本方針(案)
(パブリックコメント募集文書)
平成 22 年5月 27 日
総合科学技術会議 基本政策専門調査会
科学技術基本政策策定の基本方針(案)
Ⅰ.基本理念
1.ダイナミックな世界の変化と日本の危機
2.国家戦略における基本計画の位置付け
3.第4期基本計画の理念 ~第3期基本計画の実績と課題を踏まえて~
Ⅱ.国家戦略の柱としての2大イノベーションの推進
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1.基本方針
日本を取り巻く危機をチャンスに転換し、新たな成長につなげるととも
に、豊かな国民生活を実現していくためには、我が国が直面する喫緊の重要
課題の解決に向けたイノベーションの創出が不可欠である。
このため、国家戦略の柱として、地球規模気候変動、少子高齢化の対応に
向け、2大イノベーションを推進する。グリーン・イノベーションで世界に
先駆けた環境先進国の実現を目指すとともに、ライフ・イノベーションで健
康大国の実現を目指す。これら2大イノベーションの推進は、国民生活の質
の向上に貢献するとともに、国内のみならず国際的にも展開していくことに
より、新たな成長分野と雇用を創出するなど、新成長戦略のエンジンとして
の役割を担う。
また、イノベーション・システムがオープン、グローバル、フラットに変
化する中、我が国全体としてのイノベーション創出力を高めていくため、イ
ノベーション創出を担う産学官各セクターを強化し連携を深めるとともに、
多様性の活用や新たな仕掛けの導入などの新たな仕組み作りを進める。
これらにより、産学官の強固な連携の下、科学・技術・イノベーション政
策を一体的に推進していく。
2.グリーン・イノベーションで環境先進国を目指す
(1)グリーン・イノベーションの推進(P)
○ 地球規模課題である気候変動の克服に向けて、グリーン・イノベーショ
ンを推進し、環境に配慮した国民生活の質の向上を実感できる、持続可
能な低炭素・循環型社会の実現を目指す。
○ 日本の国際的な強みである環境・エネルギー技術を国内のみならず海外
に展開するとともに、研究開発によるブレークスルー創出、イノベーシ
ョン創出を戦略的に推進し、「環境先進国」の実現を目指す。
○ グリーン・イノベーションの推進により、気候変動問題の解決に貢献す
るとともに、国内外の新たな成長分野や雇用の創出を掲げる「新成長戦
略」を推進するエンジンとしての役割を担う。
(2)グリーン・イノベーションの主要な課題と方策(P)
○ 再生可能エネルギーへの転換
持続可能な低炭素社会を実現する鍵は、化石燃料から再生可能エネルギ
ーへの転換である。既にEUをはじめ諸外国は「再生可能エネルギーへの
転換」を意欲的、戦略的に展開している。我が国においても、政府は地球
温暖化対策基本法案(国会審議中)で「2020 年に一次エネルギー供給に
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占める再生可能エネルギーの供給量を 10%にする」という積極的な方針を
掲げたところである。再生可能エネルギーへの転換は、地球温暖化問題の
解決に貢献するとともに、国内外の新たな成長分野や雇用を創出し、成長
の原動力となることが強く期待される。
再生可能エネルギーへの転換に向けて、太陽光発電、バイオマス利用技
術、風力発電、水力発電、地熱発電、太陽熱利用、海洋エネルギー(潮力・
波力発電)など、多様なエネルギー技術の開発・活用を多面的、戦略的に
進めるべきである。特に、これら各技術の温室効果ガス削減ポテンシャル
を最大限に活かし、それぞれの特徴に応じて、国内外に普及・展開を図る
ことが重要である。さらに、まったく新しい発想に基づいた研究開発によ
るブレークスルー創出、イノベーション創出が強く求められる。
個々の技術の展開とともに、多様な再生可能エネルギーの大量導入に向
けて、スマートグリッド、蓄電池や情報通信技術の活用による電力系統安
定化システムの構築を推進することも不可欠である。
○ エネルギー供給・利用の低炭素化
我が国のエネルギー供給は、化石燃料を主力としており、次いで原子力
発電に依存している。エネルギー供給はさまざまな技術分野にまたがって
いるため、各分野における低炭素化を加速的に進めることにより、温室効
果ガス削減に貢献できるとともに、関連産業の活性化や雇用創出が期待で
きる。また、我が国のエネルギー供給に関する技術は、今後新興国、途上
国を中心に利用拡大が見込まれ、国際展開により経済成長に大きく貢献す
ることが期待できる。
温室効果ガス排出削減量や国際競争力等の観点から、課題解決に向けて、
次の方策を重点に推進する。
-原子力発電による社会の低炭素化の推進
-化石資源の効率的使用
-製造プロセスの環境調和 など
○ エネルギー利用の効率化・スマート化
我が国は、世界トップクラスの省エネ技術の研究開発を持続的に推進し
てきたが、国際的な競合状態が急速に厳しくなっている。特に、省エネ技
術の更なる効率化、さらにスマートグリッド、エネルギーマネジメントな
どによる革新的なトータルシステムの確立が重要である。
エネルギー利用の効率化・スマート化については、研究開発によるブレ
ークスルー創出、新しいイノベーション創出が大いに期待される。特に、
これまでの概念に捉われず、斬新な発想でイノベーションを創出すること
が重要である。
一方、我が国の最終エネルギー消費の 52%を占める民生部門と運輸部門
は、エネルギー利用の効率化・スマート化による多様なイノベーションが
進展すると期待され、温室効果ガス排出量の大幅な削減が可能である。さ
らに、自動車、ものづくりなど、我が国が国際競争力を有する省エネ技術
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は、国際展開で海外市場を獲得することにより今後も成長し続けることが
期待される。
温室効果ガス排出削減量や国際競争力等の観点から、課題解決に向けて、
次の方策を重点に推進する。
-次世代自動車の開発・普及による交通運輸分野の低炭素化
-高断熱化、ヒートポンプ、定置用燃料電池、高効率照明、エネルギー
マネジメントなどによる住宅・建築物の省エネ化、ネット・ゼロ・エ
ネルギー化
-情報家電・情報通信機器等の省エネ化、ネットワークシステム化
○ 社会インフラのグリーン化
世界に先駆けて「環境先進国」を実現するためには、住まい、交通、土
地、水と緑、資源などの社会インフラ全体を低炭素・気候変動対応型に転
換していくことが必須である。社会インフラのグリーン化に向けて、フィ
ールド実証実験の実施により、環境技術の革新と社会システム・制度改革
を一体的に推進することが重要である。これにより、環境への配慮と国民
生活の質の向上を両立させる。
-快適で質の高い社会・生活空間の実現:省エネ型街づくり、交通シス
テムの革新、資源の循環利用など
-自然環境と調和した先進的な社会インフラの実現:水イノベーション
(水防災、水再生、統合水資源管理など)、食料生産の気候変動適応、
生物多様性の保全など
○ 地球環境観測情報の高度利用
宇宙・海洋観測によりもたらされる膨大な情報は、イノベーション創
出の宝庫である。気候変動問題の解決に向けて、多様なイノベーション
創出が期待される。
○ 情報通信技術は、クラウドコンピューティングや、リアルな輸送や移動
を節約するバーチャルコミュニケーションをはじめ、社会システムの
隅々まで低炭素化を浸透させるのに有効であり、グリーン・イノベーシ
ョンの推進を分野横断的に支える。
○ 新たな社会システム・制度の構築に向け、人文社会科学との連携も深め
ていく。
(3)グリーン・イノベーションを支える政策
○ 課題解決に向けた最先端の研究開発を推進するため、ひとつの制度的実
験として、限られた数の「ナショナルラボ」を指定し、適切な管理の下
に関連規制を解除し、先端研究開発を強化する。例えば、安全確保の観
点から行われている規制であって研究開発の円滑な推進を妨げるおそれ
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のある安全規制について補完的な安全確保措置を講ずることで限定解除
する特区機能付先端研究拠点の創設を早急に検討し、実行に移していく。
○ 国際標準化については、今後世界的な成長が期待され日本が優れた技術
を有する国際標準化特定戦略分野としてまず7分野(特定戦略重点7分
野)を選定し、標準化に向けた取組の工程を含む知的財産マネジメント
を核とした競争力強化戦略を、官民が協力して 2010 年度に策定し、これ
を推進する。特定戦略重点7分野のうちグリーン・イノベーション関連
は、水処理、次世代自動車、鉄道、スマートグリッドなどのエネルギー
マネジメント、クラウドネットワークなどのコンテンツメディアの各分
野である。
○ 法制度によるルールの変更で既存の価格体系を変え市場機能を活用しつ
つイノベーションを誘発する、いわば「ポジティブ規制」による、大胆
かつ新たなイノベーション促進政策も検討し、実施すべき時期に来てい
る。既に欧米では、新たな法的制度によって、太陽光発電、風力発電、
エタノール自動車、燃料電池自動車、バイオ燃料に関し、地域レベルで
従来にない新規市場を創出し、民間の新規投資を誘発し、イノベーショ
ンを強力に推進してきている。我が国においても、グリーン・イノベー
ション推進の観点からは、以下の項目を中心に、既存規制・制度の点検・
改革や、イノベーション促進型制度・規制の検討を進める。
【検討項目例】
(既存規制・制度の点検と改革)
・ スマートグリッド、次世代自動車の普及を妨げるおそれのある電気
事業法等の点検や運用の見直し
・ 水素先端材料開発や水素ステーション等供給インフラの普及を妨
げ、高温超電導技術の実用化を妨げるおそれのある高圧ガス保安法、
建築基準法等について、海外との調和も含め、点検・改革
・ 効率的で広域のリサイクル活動を妨げるおそれのある廃掃法の点
検・改正
(イノベーション促進型制度・規制)
・ 住宅断熱基準の改定と将来時点での強化プログラムの段階的設定を
含む住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化の推進
・ バイオ燃料(バイオエタノール、バイオ・ディーゼル、バイオジェ
ット)、バイオガス、汚泥燃料について、LCA(ライフサイクルア
セスメント)での温室効果ガス削減基準等の持続可能性基準の設定
と本基準を満たすバイオ燃料・バイオガス・汚泥燃料の導入促進
・ 間伐材・林地残材の導入活用義務の設定と段階的拡大
・ 省資源・省エネ・低炭素型のグリーンサプライチェーン構築を促す
資源有効利用促進法の運用の点検・見直し
・ 環境保全を考慮した、経済的かつ実効的な小型家電のリサイクルシ
ステム構築に向けた課題の検討
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・ 技術的議論に立脚した適切な自動車燃費基準の改訂
・ エコカー専用レーンやエコカー通行料金割引制度等の導入検討
・ 品質が適切に市場で評価されるための太陽光発電の信頼性や安全性
に係る評価基準の策定
○ 研究開発実施側と規制担当部局が連携して、リスクと効果を科学的に分
析・評価する「有効性及び安全性の評価科学」であるレギュラトリー・
サイエンスなどエビデンスに基づく政策を関係府省の優先政策と位置付
けて充実させ、科学的データに基づく規制の策定・改革を図る。
3.ライフ・イノベーションで健康大国を目指す
(1)ライフ・イノベーションの推進
○ 健康寿命の延伸、人口減の中での活力の維持など、少子高齢化の中で全
ての年齢層の国民が豊かさを実感できる社会を築くとともに、医療・介
護・健康関連の科学・技術や産業の発展を通じた成長を実現するライフ・
イノベーションを推進していく。
○ ライフ・イノベーションにより「心身ともに健やかで長寿を迎えたい」
という人類共通の目標を達成するため、健康大国日本の実現を目指す。
○ 科学・技術が貢献できるライフ・イノベーションについての考え方は「医
療・介護・健康分野における科学・技術による課題解決、イノベーショ
ンの実現により、国民生活の質の向上、産業・経済の中長期的な発展、
成長を目指す。」こととする。
(2)ライフ・イノベーションを支える政策
① ライフ・イノベーションが目指すもの
○ 以下の主要疾患を重点的対象として取組む(P)
○ 予防医学の推進による罹患率の低下
○ 革新的診断・治療法の開発による治癒率の向上
・ がん対策
・ 国民が医薬品等をより安全(P)に利用できる環境を整備するため、
電子化された医療情報を医薬品の安全対策の充実・強化に活用する技
術や拠点の整備について、ライフ・イノベーションの観点から推進
・ 電子カルテや遠隔医療システムなど医療サービスの向上を図るとと
もに、ライフサイエンスの研究開発そのものを加速する情報通信技術
について、ライフ・イノベーションの観点から推進
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○ 高齢者・障がい者の科学・技術による自立支援
・ 高齢者、障がい者の生活支援技術の開発:生活支援ロボットなどの革
新的技術開発の着実な推進
○ 革新的創薬技術等の実用化
・ iPS細胞の実用化をはじめとする再生医療の実現:先天的あるいは
事故・病気・老化等により後天的に失われた機能等を補助・再生する
医療の実用化など
・ がん領域等における個人の体質に合った画期的治療薬等の開発:がん
や心臓病などに対する、個人の体質に合った治療効果が高く副作用の
少ない画期的治療薬の開発の推進など
・ アルツハイマー病をはじめとした認知症などの克服:認知症や気分障
害に対する予防法や超早期診断法、治療薬の開発など
・ 創薬などに向けた革新的医療技術基盤の整備:iPS細胞等を用いた
創薬標的の探索や毒性評価技術の開発、バイオマーカーの探索に向け
たゲノム創薬の研究の推進など
○ 革新的医療機器等の実用化
・ がん領域等における身体に優しい診断・治療法の確立:放射線治療や
内視鏡手術等の低侵襲的な手法の開発など
・ 革新的治療機器の開発:工学と医学等の融合による高機能な人工臓
器・組織の開発など
・ 革新的な診断装置の開発:工学・情報科学等の他分野のシーズも取り
込んだ、革新的な画像診断装置の開発など
・ 健康長寿をサポートする医療機器等の開発:高齢者等の低下した身体
機能の回復のための医療機器等の開発など
○ 新しい複合治療技術(医薬品・医療機器・再生医療)の展開
・ 薬剤と治療デバイスの複合体や、人工臓器に再生医療技術を組み込ん
だハイブリッド人工心臓など、分野を融合した治療技術の推進など
【数値目標例】(P)
・ 2020 年までに 10 程度の主要疾患について、希望者全員が、安価でゲ
ノム解析による予防医療を受けられるようにする。まずは、ネット
ワーク化したゲノム・健康情報を有効活用し、日本人におけるゲノ
ム・体質の相違を起因とする疾患特性の解明や診断治療法の確立の
ため、10 万人規模の疫学・ゲノムコホート研究を実施し、その後、
主要疾患(主にがん、アルツハイマー、糖尿病)の原因因子を3程
度解明することで、患者に負担の少ない予防、検査、診断、治療法
の確立を目指す。
・ 計画期間内に開発要望のある未承認薬のリストを半減する。
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~~~~~~~~~~~~~~~~~~
注:以下途中転載省略
=================
4.イノベーションの創出を促す新たな仕組み
2大イノベーションをはじめ、幅広い領域でさまざまな課題解決型イノベー
ションが沸き起こるようにしていくため、以下のような新たなシステムの構築
を推進する。
(1)新たなイノベーション創出力の構築
① イノベーション創出に向けた戦略策定・推進のための「場」の構築
○ 民間、大学、研究開発機関及び各府省が、現状認識や将来ビジョンの共
有化を図り、研究開発の推進などに関する具体的戦略を協働で検討する
場(プラットフォーム)として、「イノベーション戦略協議会(仮称)」
について検討し、創設する。
・ 協議会は、国として解決すべき重要な政策課題ごとに設置し、それぞ
れの課題解決に向けて、基礎的な段階から社会への実装に至るまでの
推進すべき具体的な研究開発課題、達成目標、研究開発の推進体制、
資金配分の在り方を検討し、戦略を策定する。各参画主体は、協議会
の下で連携・協力しつつ、戦略に基づく取組を進める。戦略は、目的
からのバックキャストや民間の視点を取り入れた評価に基づき、適時
適切に見直し、PDCAサイクルを確立する。
・ 協議会は、大学や研究開発機関の研究開発活動の産業界への発信、産
業界の研究開発ニーズの把握などの場としての役割も担う。また、市
民・NPOとのコミュニケーションを充実させ、多様な意見を踏まえ
た戦略の展開を図る。
② 知のネットワーク強化のための体制整備
○ 我が国全体としてのイノベーション創出力を高めるため、イノベーショ
ン創出を担う各セクターの連携を深める知のネットワーク強化のための
各種取組を推進する。
・ 産学官連携の円滑な実施のため、大学及び研究開発機関における産業
界とのインターフェース機能を充実し、情報提供、契約作成、権利調
整を迅速に行える仕組みを整える。この際、各大学・TLO(技術移
転機関)の特性・実態を踏まえ、TLOの再編(ネットワーク化・広
域化・専門化)、産学官連携本部とTLOの統合や連携強化、大学間
ネットワークの形成、外部専門家の機動的活用など、効果的な産学連
携機能の強化を図ることが求められる。
・ イノベーションのグローバル化への対応として、大学における海外特
許取得の取組を強化するとともに、特定領域について海外での重要な
特許取得を巡る訴訟に関する支援を行う。また、海外法人との共同研
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究・受託研究の拡大に向け、技術情報管理、知的財産保護、職務発明
規定などの連携ルールについて、海外の状況を踏まえつつ検討を行い、
整備を進める。また、大学において国際的にも通用する知財専門人財
の育成・確保に向けた取組を進めることが期待される。
・ 大学及び研究開発機関は、将来の研究の自由度確保を考慮した取得特
許の管理・活用を進めるとともに、博士課程の学生等を共同研究や受
託研究の研究者として活用する場合にこれらの学生と雇用契約を締
結し、知的財産の取扱いや秘密保持について明確にしていくことが期
待される。また、大学及び研究開発機関の企業内研究室や企業の大学
及び研究開発機関内研究室の設置、産学間の人財交流の活性化など柔
軟な連携を可能とする体制を整備することが期待される。
・ 研究開発機関は、それぞれのミッションに関連した領域におけるシー
ズとニーズ双方の知見を有していることから、大学の基礎研究を実用
化に向け橋渡しする機能を充実し、円滑な産学官連携を促進する。
・ 大学における有望なシーズの発掘から実用化までの切れ目ない支援
を強化する。
・ 産学官連携の成果を総合的に検証するため、単純に特許取得数や共同
研究件数のみならず、特許実施件数や関連収入、市場への貢献、研究
成果の普及状況、雇用の維持・確保など質的な評価を充実させる。
③ 多様な研究開発力を結集する場の構築
○ 課題解決型のイノベーションを効率的かつ迅速に進める仕掛けとして、
産学官の多様な研究開発力を結集し、基礎研究段階から出口を見据えた
戦略的な研究開発を行い、イノベーション創出につなげる多様なオープ
ン・イノベーション拠点(産学官による開かれた研究開発拠点)を形成
する。その際には、参加主体が、情熱とプライドを賭けて、それぞれの
持つ情報・知識を持ち寄り、実質的な成果が挙がるよう制度・組織設計
に細心の注意を払う必要がある。超LSI技術研究組合やIMEC
(Interuniversity Micro Electronics Center)などこれまでの成功例
を踏まえ、異なる利害関係を持つ多様な参加主体の間で実質的協働が可
能となる非競争領域/前競争領域での共通基盤技術の研究開発を中核に
据えることが不可欠である。また、そのメンバー構成、情報管理、成果
配分、紛争処理についても最新の経済理論も踏まえた適切な制度設計を
行う。国内外から優れた研究開発力を惹きつけるため、優れた外国人の
参加などについても考慮する。さらに、このような拠点において、若手
を含む適切な人財育成が行われることが、中長期的な研究及び産業両面
での国際競争力の源泉となることにも十分配慮していく。
○ 入口から出口まで一貫した産学協同によるイノベーションの場としての
役割が期待されている先端融合領域イノベーション創出拠点の形成や、
産学対話を行う研究開発と人財育成の共創の場の形成を推進する。
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(2)多様性を活かしたイノベーション創出の活性化
① 多様なイノベーションを生み出す仕掛け
○ 創業活動の活性化は、新たな雇用創出と経済の新陳代謝の観点から重要
である。特に、先端的な科学・技術に根ざしたハイテクベンチャーの創
業は、科学・技術から多様なイノベーションを通じて社会に展開する上
で重要なチャネルとなる。世界のイノベーション・システムがオープン、
グローバル、フラットに変化する中で、cutting-edge の先端技術にチャ
レンジして社会に提供するベンチャー創業やカーブアウト(現代版「の
れん分け」)に関して、以下の基盤整備を行う。
・ 創業活動を活性化する基盤整備として、起業家精神の涵養、起業体験
教育などの人財育成を充実する。また、ビジネス支援図書館における
情報提供を含め、専門家による法務・知財・資本戦略などのメンタリ
ング支援を可能とする「顔の見える」ネットワーク構築を進める。特
に大学発ベンチャーに関して、我が国では、先端技術があれば即ビジ
ネス化できるとの観念が強く、往々にして、グローバルに戦えるマネ
ジメントチームの組成、未検証市場へのチャレンジ、適切な資本戦略、
コンテンツやシステムや知財戦略を含む総合的ビジネス戦略の構築
といった技術以外の重要な要素が見落とされがちである。大学発ベン
チャーについては、こうした点に十分留意した支援を行う。
・ 先端的なアイデアや技術シーズを持つベンチャーの「登竜門」として
米国で既に大きな成果を挙げ、2009 年から英国が本格導入している多
段階選抜型のSBIR(Small Business Innovation Research)を本
格実施する。これは、適切な課題設定の下、①ビジネスプラン作成、
②試作開発、③政府調達又は民間ベンチャーキャピタル等とのマッチ
ングという三段階選抜方式によって、リスクの高いハイテクへのチャ
レンジについて、公的な下支えを通じ、民間投資を誘発しつつイノベ
ーション実現への橋渡しを行うものである。各府省の研究開発予算の
○%を、多段階選抜型のSBIRに充てる。その際に、各府省は、独
自の制度化、他府省との共同実施を選択可能とする。
・ ベンチャー支援では、大胆なチャレンジを許容するリスクマネー(エ
クイティ・ファイナンスやエンジェル投資)の充実が不可欠である。
我が国は、経済規模に比べたリスクマネーが、OECD諸国中、ほぼ
最下位で、ベンチャー活動が不毛であった大きな原因でもあった。既
に、エンジェル税制の拡充や中小企業基盤整備機構、産業革新機構に
よるリスクマネー強化政策が展開されているが、制度や運用について
不断の点検を行い、充実・強化を図ることが重要である。なお、ファ
ンド型支援は、毎年消費される補助金とは異なり、ストックとしての
先行投資で新たなビジネスを開発し、新たな雇用を継続的に生む。こ
のため、短期的な時価総額の変動に左右されず、長期的視点で「投資」
を行うことが重要であり、短期的・形式的な行政評価には必ずしも馴
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染まないことに十分留意すべきである。また、オープン・イノベーシ
ョン促進のため、エンジェル投資の厚みを増すことも含め、研究開発
型ベンチャーへの支援措置も検討する。さらに、グローバルなビジネ
ス展開が必須であることから、投資家やパートナーとの出会いの場と
なる国際見本市など情報発信機会の提供・充実が重要である。
② イノベーション推進のための特区の活用
○ 課題解決に向けた最先端の研究開発を推進するため、ひとつの制度的実
験として、限られた数の「ナショナルラボ」を指定し、適切な管理の下
に関連規制を解除し、先端研究開発を強化する。例えば、既述の通り、
グリーン・イノベーションに関して安全確保の観点から行われている規
制であって研究開発の円滑な推進を妨げるおそれのある安全規制につい
て補完的な安全確保措置を講ずることで限定解除する特区機能付先端研
究拠点や、ライフ・イノベーション関連での日本版バイオポリスなどに
ついて、検討していく。なお、ここでいうナショナルラボとは、大学、
研究開発機関、その共同形態など様々なスタイルがありうる。
③ 地域の特性を活かしたイノベーションの推進
○ 各地域がそれぞれの強みを活かし、ビジョンを持って自発的に科学・技
術を推進し、グローバルに活躍していくことが重要である。グリーン・
イノベーション、ライフ・イノベーションにおいても、地域の課題解決
の取組により、我が国全体や世界的に貢献していく。例えば、バイオ・
ディーゼル燃料では家庭を含む廃油回収のシステムが鍵であるし、レジ
袋削減のような地域レベルでの地道な取組など、ライフスタイルの変更
を含むイノベーションの取組が、地球温暖化対策への貢献につながるこ
とが重要である。既に集中的な取組を継続して実績を挙げてきたエコタ
ウンは、アジア諸国の模範として二国間協力の好例となっているが、こ
のように、地域の課題解決が国際的な課題の解決にもつながる取組を強
化していく必要がある。また、秋田県での地域と一体となった自殺予防
研究の取組が自殺死亡率減少に実効を挙げていることも注目される。さ
らに、東海地域の、大学と地域の中小企業との共同による加工技術の高
度化に関する取組や、関西地域の、先端的な創薬開発によるバイオクラ
スター形成に向けた産学官一体の取組も進められている。
○ 資金支援や人的支援、特区などを組み合わせ、各地域において多様なシ
ステムの試みにチャレンジし、優れた試みを伸ばす。特に、これまで関
係府省が支援してきたクラスターには優れた成果を上げているものがあ
り、これらの取組を自立的な地域経済の核として、グローバルにも展開
していけるよう、ネットワーク形成や人財育成、知財活用などで重点支
援する。
○ 市民主体で明確にした地域の課題や国家的・社会的な課題等に関して、
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地域をフィールドとして、研究開発から技術実証、社会還元までを研究
者と市民が協力して一貫して行う新たな研究開発システムを構築する。
また、優れた構想を有する地域に対して、関係府省の施策を総動員でき
るシステムを構築する。
○ 各地域において、研究開発を担う人財や、地域の特色を活かした地域イ
ノベーション構想の推進を担うマネジメント人財、産学官民の連携や知
的財産活動を担うコーディネーター人財の養成・配置、外部有識者の登
用を促進する。また、大学は、地域における人財育成や産学官連携活動、
知財活動、社会貢献などに関する支援機能を強化するとともに、これら
の取組が、大学評価の際に積極的に反映されることが期待される。
(3)イノベーションを誘発する新たな仕掛け
① 新たな制度・規制による新市場の創出
○ 規制や制度は、時代に合わなくなったものや過度に厳格なものではイノ
ベーションを阻害する場合も多いが、逆に、時代を先取りしたものでは、
むしろ新たなイノベーションを誘発し、促進するものもある。このよう
な、イノベーションのインセンティブを高める新しい社会制度である、
いわば「ポジティブ規制」について、グリーン・イノベーション、ライ
フ・イノベーション関連のものは、2.及び3.において例示した。こ
の他にも、2大イノベーションの推進のため、またその他の領域におい
て、アウトプット目標も念頭に置きつつ、引き続き新たな制度・規制に
ついて検討していく。
○ 国際標準化では、研究開発段階からの戦略的取組を促進する。特に、米
国・EUのみならずアジア諸国と連携し、国際標準獲得に寄与する国際
的パートナーシップの下で共同研究開発プログラムを推進する。また、
公正な評価方法や適切な規格・基準を見極めるための研究及び国際標準
化並びにその認証への取組を強化する。国際標準化や性能評価・安全基
準の策定に関する産学官のハブとしての研究開発機関の機能を強化する。
○ 認証は、国内外で標準技術の実用化・普及を促進するために不可欠なも
のであり、特にアジアにおいて、環境保護・製品安全に関する領域や相
手国の産業振興に寄与する領域を中心に、製品試験・認証を行う機関へ
の協力を進める。
② 知的財産権制度の見直し及び知的財産の適切な保護・活用
○ 研究成果の社会還元を目的として知的財産を活用するという大学及び研
究開発機関の特性を踏まえ、出願フォーマット(様式)の自由化、新規
性喪失の例外の拡大、アカデミックディスカウントの改善など、これら
の機関がより利用しやすくなる特許制度の見直しを行う。
○ 特許審査結果の実質的な国際相互承認を目指し、日米欧韓中の間で各特
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許庁の審査結果を共有するシステムの構築、特許審査ハイウェイの対象
拡大、手続簡素化を行い、特許審査ワークシェアリングの質を向上し、
量を拡大する。また、各国の出願手続の統一及び簡素化を目的とする特
許法条約への加盟を視野に入れ、出願人の利便性向上に資する制度整備
を進める。
○ 研究目的に限って特許を無償開放する仕組みを、大学をはじめとした参
画機関の協力を得て構築する。また、特許と関連する科学・技術情報も
併せて収集・公開して運用を行う取組や、国の委託から生じた知的財産
を利活用するためのプール管理を含む枠組みやプロセスの整備を進める。
また、国の研究開発投資で得られた知的財産の海外への技術移転の在り
方について基本的方針を検討し、早急に実施する。
○ 特許・論文情報統合検索システムの利用を促進するとともに、関連特許
や各種文献等をリンク・分析するシステムを整備するなど、知的財産関
連情報の基盤整備とネットワーク化を進める。
③ 公共部門におけるイノベーションの促進
○ 犯罪・テロ対策における爆発物等の検知技術や画像解析技術など、市場
の限られた公共部門において、技術を利用する側の府省(出口側機関)
と技術をもつ研究開発機関とが、実装までの道筋を視野に入れた連携開
発システムを構築し、公共部門におけるイノベーションを促進する。
21
Ⅲ.国家を支え新たな強みを生む研究開発の推進
(P。詳細については、引き続き検討。)
1.基本方針
国家戦略の柱としての2大イノベーションを支え、また幅広く社会のさま
ざまな要請に応えて、国家を支え新たな強みを生む研究開発を推進する。こ
のため、我が国が取り組むべき大きな課題を設定し、それを解決・実現する
ための戦略を策定する。その戦略に基づき、豊かな国民生活、産業及び国家
の基盤を支える研究開発を推進するとともに、研究開発全体の共通基盤を支
える技術を強化していく。
2.豊かな国民生活の基盤を支える
○ 社会の安定と発展の基盤となる、食料確保、水・資源の確保、災害・保
全対策、火災・事故・犯罪対策、リスク管理といった国民生活の安全(P)
の確保、豊かな国民生活の実現のための研究開発を推進する。
3.産業の基盤を支える
○ 産業の基盤を支える以下について研究開発を推進する。
・ 我が国が強みを持つ独創的・先進的な技術シーズである、ロボティ
クス、フォトニクス、エレクトロニクス、ナノテクノロジー、バイ
オテクノロジー、組込みシステムなど
・ 我が国の競争力の源泉であり、引き続き維持・強化すべき精密加工
技術、制御技術、精密計測技術をはじめとするものづくり技術や材
料科学技術
4.国家の基盤を支える
○ 長期的視点から国家の存立にとって重要となる、宇宙、海洋、防災、原
子力、情報通信・セキュリティに関する基幹・安全保障技術の研究開発
を推進する。
○ その際、研究開発のみならず当該領域の施策全体を定めた宇宙基本計画
や海洋基本計画といった他の基本計画と整合性を取りながら進める。
5.研究開発の共通基盤を支える
○ 研究開発の共通基盤を支えるものとして、人文社会科学の知見も活用し
て要素技術をシステム化する技術、最先端の解析・計測技術、研究開発
の高度化を先導する数学・数理科学技術などの基盤技術について、国際
的な情報交換についても配慮しつつ、研究開発を推進する。また、豊か
な国民生活、産業及び国家の基盤として重要となる情報通信技術、ナノ
テクノロジー、材料科学技術の強化を図る。
22
Ⅳ.我が国の科学・技術基礎体力の抜本的強化
1.基本方針
諸外国が、中長期的な発展を実現する鍵として、科学・技術の根幹となる
基礎研究に競って重点投資をする中、我が国においても新しい「知」の資産
を創出する基礎体力を強化していくことが強く求められる。このため、新た
な芽を創出する多様な基礎研究を強化していくとともに、国際研究ネットワ
ークのハブとなる研究拠点やリサーチ・ユニバーシティ(仮称)の形成をは
じめ、芽の出た研究を更に伸ばす取組を進める。また、科学・技術を担う人
財について、多様な人財の育成と活躍の促進を進めるとともに、独創力や総
合力に優れた資質を伸びやかに発揮させる環境整備や次代を担う人財育成
を推進する。さらに、これらの取組の基盤として国際水準の研究環境の構築
が不可欠であり、大学及び研究開発機関等における研究環境と知的基盤、研
究情報基盤の整備及び運用の充実を図る。これに加え、基礎体力を一層磐石
にしていくため、世界の活力と一体化する国際展開を推進し、アジアとの連
携強化や科学・技術外交の新次元の開拓を進める。
2.基礎研究の抜本的強化
(1)独創性・多様性に立脚した基礎研究の強化
○ 新しい芽となる研究を不断に生み出していくためには、研究者の自発的
発想に基づく多様で重厚かつ独創的な知の創造を目指した研究を推進す
るとともに、それらを飛躍的に発展させていくことが重要である。また、
多様な知識の出会いや衝突により新奇を創出していくには、研究領域、
研究組織、国境といった既存枠組みを超え、現象の法則性等を学問領域
間で共有するなど、知を横断的に捉えて新たな切り口でアプローチする
研究が重要である。
○ このため、研究者の意欲を高め、新たな挑戦を促し、また全体的な質の
向上を図るための改革を推進していく。
・ 研究者が自らの発想に基づいて行う研究を支援するとともに、学問的
な多様性・継続性を確保し発想の苗床を確保していくための、大学の
基盤的経費(P)の充実を図る。
・ ボトムアップ型の研究は、多くの種をまき、芽が出るかどうかを見守
る必要があることから、萌芽を育み研究を活性化させる科学研究費補
助金について、以下のような充実と改革を図る。
- 採択率を 30%程度に上げ、通説に反する挑戦的研究にも機会を与
えるため、今後5年間で大幅な増額が不可欠である。(P)
- 現在は種目が複雑で多岐にわたり、1件当たりの配分額も年々減
少して、2009 年度では 280 万円にまで落ち込んでいる(欧米諸国
の平均配分額は、NSF:米国立科学財団 1300 万円、ANR:
23
仏国立研究機構 1800 万円、NIH:米国立衛生研究所 3500 万
円)。このため、研究者が多数の種目に応募せざるを得ずに、応募
件数が過大となり、審査の精度も低下している。これを改善する
ため、研究に責任を持つ独立した研究者であるPI(Principal
Investigator)のみが応募できる種目を指定し、そこに十分な研
究費を確保することが必要である。(P)
- 現在の細目は過度に細分化されて狭い領域で審査・評価が続けら
れており、萌芽的研究を柔軟かつダイナミックに入れにくい側面
がある。このため、細目を点検しつつ、大括り化やより大きな視
点からの審査の充実を行い、新興・融合領域への挑戦を誘発する。
(P)
- 客観的な指標も含む多様な評価軸による評価を実施する。
(2)世界トップレベルの基礎研究の強化
① 世界トップレベルを目指す研究の推進
○ 我が国で既に芽として育っている研究を更に伸ばし、後につなげていく
ためには、トップレベルの基礎研究を選び出し、集中的に強化すること
が重要である。
○ このため、国際的に高く評価される研究を更に向上させ、国際研究ネッ
トワークの中心部により深く食い込んでいけるよう、集中支援を行う。
・ 研究の推進、人財育成や海外からの人財獲得、国際的に開かれた情報
発信機会の充実を可能とするよう多面的に支援する。
・ 学術論文及び特許のデータベースや府省共通研究開発管理システム
(e-Rad)に基づく政府研究開発データベースも活用し、大学及び研
究開発機関などの機関別又は研究領域別で成果と投入金額の相関関
係を明らかにし、資金配分の検討に反映する仕組みを構築する。
② 世界の人財を惹き寄せ躍進する国際研究ネットワークのハブ形成
○ 世界の優秀な人財を集め、世界に対し発信力のある研究開発を活発に実
施して、更にその成果が広く社会に還元されていくようにするためには、
国際研究ネットワークのハブとなる研究拠点を国内に形成していくこ
とが重要である。
○ このため、国際研究ネットワークのハブとなる大学及び研究開発機関の
抜本的強化を図る。また、世界トップレベルの拠点を持つ大学を中心に
50 程度のリサーチ・ユニバーシティ(仮称)を形成し、国際的に競争可
能な環境整備を行う。
・ 大学の国際水準の研究・教育力や戦略性を厳格に審査し、新しい成長
分野などの領域で世界をリードし質の高い研究・教育を行う大学に対
する重点的な支援や、特定の領域や萌芽的な学際領域で優れた研究・
24
教育を行う大学に対する支援を行う。
・ 世界第一線の研究者の集積、迅速な意思決定、独自の人事・給与体系、
英語での研究活動などの先進的な取組を実現する拠点を形成し、国際
的に優れた成果の創出、新たな融合領域の触発、人財育成を図る。
・ 将来国際研究ネットワークのハブとなりうる大学を形成していくた
め、他国の事例も参照しつつ、研究領域別の国際比較の仕組みを作る。
その上で、このようなハブを目指す大学が、国内的、国際的比較にお
いてどのような位置を占めているかを目に見える形で明らかにする。
各研究領域において世界のハブとなりつつあることを示した大学に
ついては、これを資金的に重点支援するとともに、戦略的な人事・経
営等の取組を促進する。
・ こうした取組も通じ、研究領域毎の論文被引用数 50 位以内の拠点を
計画期間内に 100 程度形成していくこと(P)や、研究領域毎の論文
被引用数世界トップ1%の研究者を増やすことを目指す(P)。
○ また、国際研究ネットワークのハブの形成に向け、世界の優れた研究
者・学生の大学及び研究開発機関への受入れを促進するための各種取組
を推進する。
・ 研究環境の整備や給与等の処遇面の改善・充実、日本で研究を行う外
国人研究者のスタートアップ支援、奨学金やフェローシップ等の留学
生・研究者への支援体制の整備・充実、これらの取組を推進するため
の事務体制の強化を推進する。また、出入国管理制度上の措置の検討、
周辺自治体・地域の国際化を進める。さらに、留学の動機付けとなる
日本及び日本の大学の情報発信、留学生が帰国した後のフォローアッ
プの充実など、留学生 30 万人計画に基づく総合的な取組を進める。
・ 大学及び研究開発機関は、優秀なPI確保のため、少なくとも3~5
年の契約(再任可)をするよう独自の取組を進めることが期待される。
・ 海外で活躍する日本人研究者の研究者のデータベースを早急に整備
し、採用や科学・技術の国際ネットワークの構築の際に活用していく。
・ これまでの国際戦略本部などの取組とその進捗を踏まえつつ、大学及
び研究開発機関において、外国人研究者に対する研究環境の整備や家
族を含む生活面での支援に関して、専門性の高い職員を配置するなど
事務体制を強化し、より丁寧に対応していく取組を促す。
・ こうした取組も通じ、大学及び研究開発機関における外国人研究者の
比率を 10%とすることを目指す。(P)
3.科学・技術を担う人財の強化
(1)多様な人財の育成と活躍の促進
① 大学院教育の抜本的強化
○ 大学における人財育成機能の強化や国際競争力強化の重要性については
25
第3期基本計画にも明記されているが、国際競争が一層激化する中、我
が国においても、より質の高い教育研究を実現するための大学改革を着
実に進めていくことが必要である。特に、経済・社会のグローバル化が
進展し、イノベーションや新たな知の創出のため国内外で活躍する優れ
た人財が求められる中、高度な人財の育成・確保に向けて、大学院の果
たすべき役割は極めて大きく、研究面のみならず教育面でも、更なる充
実・強化に向けた取組を進めていくことが必要である。
○ このため、大学院の教育研究に関する改革を進め、国際的に通用する高
い専門性と、アカデミアにとどまらず社会の多様な場で活躍できる幅広
い能力を身に付けた人財の育成に向けて、大学院教育を抜本的に強化し
ていく。その際、今後の大学院教育の改革の方向性と体系的・集中的な
取組を明示した計画に基づき、具体的な施策の展開を図っていくことが
必要である。
・ 大学院を持つ各大学は、人財育成の目的や、それを達成するための目
標設定と体系的な教育内容・方法、研究指導の方針等を明確にして、
これらの情報について透明化を図ることが期待される。また、大学院
教育の質の担保のため、大学院教育に関する情報を集約し一覧できる
仕組みを構築する。
・ 人財育成に関する産学官連携を推進し、産業界は大学院を持つ大学に
対して求める人財像を明らかにするとともに、大学院を持つ大学は産
業界のニーズを踏まえた実践的なカリキュラムを作成することが期
待される。産業界におけるイノベーション創出やアカデミアのプロジ
ェクト研究等に不可欠なリーダーの育成を目指し、徒弟制度的教育に
代わる新しい体系的なコース・ワークの実施など、産業界とアカデミ
アが連携して学生の素養・能力を伸ばす取組を支援する。(P)また、
産業界のニーズを踏まえた人財育成などについて、共通理解を得るた
めの対話の場を設置する。
・ 優秀な人財が安心して大学院を目指すことができるよう、TA(ティ
ーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)、フェローシ
ップ(研究奨励金)など、博士課程全体を通じた、大学院学生への給
付型の経済的支援の充実を図る。また、授業料の負担軽減や奨学金の
貸与等、家計に応じた負担軽減策を講じるとともに、民間企業からの
寄付金や受託研究などを活用した大学の自助努力を促進する。これら
の取組も通じ、「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額
程度を受給できることを目指す」との第3期基本計画の目標の早期達
成を目指す。(P)
・ 理工系博士課程について、大学は人財養成目的に応じ、大学院教育の
質を確保する観点から、入学定員の見直しを検討するとともに、公正
で国内外に開かれた入学者選抜を実施する。
・ アジアをはじめとする諸外国の大学との単位互換、任期制の交換教授
システム導入など、教育面での連携を深め国際的に通用する人財の育
成を強化する。
26
・ 大学は、大学教員の人財育成に係る意識改革を進めるため、大学院教
育を担う教員について、教育や若手研究者のメンターとしての業績を
可視化して多面的に業績評価が行われるようにすることが期待され
る。さらに、大学教員の自己研鑽機会を充実することが求められる。
・ 大学院における教育と研究の両立は、体系的な教育を行う基本組織で
達成されることが重要である。このため、大学における教育活動及び
研究活動に関する質保証の取組の重視、評価項目の整備、アウトカム
評価の実施など評価の実質化を促進するとともに、比較可能な形で大
学の機能別・分野別評価を促進するための評価基準の整備を行う。さ
らに、これらの機能別・分野別評価等の結果を、教育研究支援プロジ
ェクトをはじめとする予算の資源配分に一層活用するための方策を
検討し、推進する(P)。
② 専門知識を活かせる多様な人財の育成と活躍の促進
○ 課題解決型をはじめとしたイノベーションを生み出していくためにも、
また、成長のプラットフォームとしての科学・技術を推進していくため
にも、専門領域以外の多様で高度な専門知識が求められる場が拡大して
いる。このような中、研究開発マネジメント手法や知的財産管理といっ
た異次元の最新の専門知識の習得は、必ずしも十分ではない。他方で、
研究職とは異なる専門職としてのキャリアパスが未確立であるために、
高度人財が社会の中で十分には活躍できていない。
○ このため、多面的な専門知識を持つ多様な高度人財の育成と活躍促進の
ための取組を推進する。
・ 大学をはじめとした様々な場において、研究開発成果をビジネスにつ
なげる人財、課題解決に向けて効果的・効率的に研究開発をマネジメ
ントする人財、政策の科学的分析ができる人財、知的財産専門家、標
準化専門家、リサーチ・アドミニストレーター、サイエンステクニシ
ャンなどの多様な人財を育成していく。このため、社会人向け大学院
の教育の質を更に向上させるなど、実務家養成に向けた大学の取組を
充実させていくことが期待される。
・ これらの専門的で高度なスキルが社会で高く評価され、専門人財のキ
ャリアパスが確立されるようにしていくことが求められる。大学にお
いては、キャリア支援体制の強化を図ることが期待される。大学、研
究開発機関及び民間においてこれらの専門人財の処遇を改善しつつ
社会的地位を確立することにより、博士号取得者が、その適性に応じ
て多様なキャリアパスを築けるようにする。また、国及び地方の行政
機関においては、博士号取得者が、その専門性を活かして活躍できる
ような取組を一層促進していくことが求められる。(P)
・ 知財や標準化の専門家の活躍促進のため、例えば、ファンディング・
エージェンシーなどで一括して専門家をプールし、単独で専門家を置
けない大学への臨機応変な専門家の派遣や相談を可能とする体制を
27
整備する。
(2)人財の独創性と資質の発揮
① フェアでバランスの取れた評価制度の構築
○ 大学及び研究開発機関における若手研究者のポストが限られていること
などから、若手研究者が不安定な地位に置かれ、将来展望を描きにくい
状況となっている。
○ このため、フェアでバランスの取れた評価制度の構築により若手研究者
にも活躍と挑戦の機会を拓くことが求められる。
・ 研究者の多様な活動をフェアに評価する業績制度の構築のため、単純
な量的評価のみならず質的な評価を充実・徹底するとともに、研究開
発成果を実用化につなげる取組や教育能力など多様な軸での評価を
実施する。
・ 大学は、大学の人事の方針に基づき、例えば、一定年齢(50 歳)を超
えた研究者に対する教育研究能力の再審査や別の給与体系への移行
など大胆な人事や給与費全体の合理化・効率化を実施することが期待
される。また、これらの取組を透明化することで、若手研究者のポス
トを拡充し、優秀な若手研究者の流入を進めることが期待される。こ
れらの取組について、大学評価に反映することが期待される。(P)
・ 流動性の向上や若手研究者の雇用促進にもつながることから、研究者
については、年俸制による雇用を段階的に進めることを推奨する。
② ポストドクターを含む研究者のキャリアパスの整備
○ 研究者が多様な研究環境の下で経験を積み、人的ネットワークを広げつ
つ、研究者としての視野を広げ、より高度な研究に取り組んでいく上で
も、研究者の流動性を確保することは重要である。一方で、固定的・垂
直上昇的な従来型のキャリアパスからの変化が見えにくくなり、かえっ
て若手研究者の海外を含むキャリアパスの高度化と更なる挑戦への意欲
を失わせることにつながっている面も否定できない。
○ このため、安定的でありながら一定の流動性が確保される仕組み作りに
向けた施策を講じていくことが重要である。公正で透明性の高い選抜に
より採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に任
期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積む「テニュア・トラ
ック制」の普及・定着や、流動性の向上に向けた取組を促進していく。
・ 博士課程からポストドクター、その後テニュア・トラック教員を経て
テニュア教員というキャリアパスを、アカデミック・キャリアパスの
ひとつとして確立する必要がある。このため、テニュア・トラック制
の普及・定着を進める大学を支援する取組などを推進し、テニュア・
トラック教員の採用割合について、全大学の自然科学系における若手
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の新規採用教員総数のうち3割に相当する人数を目指す。(P)
・ 競争的に選考された優れた若手研究者が、自ら希望する場において自
立して研究に専念できる環境を構築するための仕組みとして、「研究
者奨励金制度」を創設する。実施に当たっては、優れた若手研究者の
育成・確保を目指す諸制度との一体的な取組に配慮するとともに、キ
ャリアパスの展望を明示することが重要である。
・ 研究者が大学や企業によるリーグの中を異動しながらステップアッ
プする仕組みの構築や、自校出身者比率の 20%以下への抑制(P)な
ど、他大学及び研究開発機関における経験が高く評価されるような柔
軟な人事が、大学の特性に応じ、自主性に基づいて進められることが
期待される。
・ 人財流動停滞の一因ともなっている、大学及び研究開発機関の兼業・
出向・研究休暇取得の関係規程や退職金の扱いなどについて、各機関
の状況の把握、公表を通じ、取組を促進する環境を整備する。
・ 優れた資質を持つ若手研究者・学生が、積極的に海外での研鑽を積む
ことができるよう、海外派遣・留学の機会の充実を図る。また、その
後の就職支援の充実や、海外での研究経験が若手研究者の採用等で適
切に評価されるような人事システムの構築といった環境整備が期待
される。
③ 女性研究者の活躍の促進
○ 我が国の女性研究者の割合は諸外国と比較しても未だ低い状況であり、
女性研究者の一層の活躍が求められている。男女共同参画は、国是であ
るのみならず、女性の持つ優れた潜在能力を解放し、我が国の中長期的
な発展を図る上でも極めて重要な鍵を握っている。とりわけ、研究開発
の領域では、女性ならではの視点、目線からのアプローチが、新たな価
値創造につながる潜在的可能性は高いと言える。
○ このため、女性の採用に関する数値目標の設定や、出産・育児等と研究
の両立を可能とする制度・体制の整備を行う。
・ 女性の採用に関する数値目標の設定と公表、実績の公表などにより、
各機関における女性研究者の登用及びその活躍を促進する。また、第
3期基本計画における女性研究者の採用目標の設定が大学及び研究
開発機関における意識を高め、実績を上げてきたことも踏まえつつ、
現在博士課程(後期)に在籍する女性の人数に照らし、次期基本計画
期間には、自然科学系の女性研究者の採用を 30%(理学系 20%以上、
工学系 15%以上、農学系 30%以上、医学系 30%以上)とすることを
目標とする。(P)
・ 出産・育児等により研究を中断する女性研究者の復帰と活躍を促進す
るため、女性研究者について、出産・育児等と研究を両立できるよう
な柔軟な雇用形態・人事制度の確立、研究サポート体制の整備を促す。
具体的には、ライフサイクルに合わせた柔軟な評価や、育児中の女性
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の教育負担の軽減、保育サポートなどの取組を行う。
(3)次代を担う人財の育成
○ 将来を担う子どもたちが、現代の市民に必要な基礎的知識としての科学
的素養を得られるよう、学習機会を充実することが重要である。
○ このため、初等中等教育段階から理数に対する関心を高め、理数好きな
子どもの裾野を拡大するとともに、その才能を見出し伸ばすための一貫
した取組が不可欠である。
・ 大学と教育委員会は連携して、中学校・高等学校の数学・理科の教員
免許で小学校の算数・理科を教える制度や、教員免許を持たない専門
家を登用する特別非常勤講師制度及び特別免許状制度の活用を通じ、
理工系学部・大学院出身者の教員としての活躍の場を拡げる。また、
処遇の適正化を進め、理工系の学部・大学院学生が観察・実験を支援
するスタッフとしてより一層活躍できる機会を充実する。
・ 理数系教育を担う教員養成内容の充実や、初等中等教育での現職教員
の研修機会の充実を通じ、理数系科目について情熱を持って教えられ
る教員を確保する。
・ 研究所見学や出前型実験・授業など、実践的で分かりやすい学習機会
を充実させ、観察・実験設備を整えることで、子どもが見て、触れて、
楽しさを実感できるようにする。また、大学、研究開発機関、博物館、
科学館など学校外でも科学・技術の知識に触れられる機会を充実する。
・ 子どもの科学・技術に対する関心を高め、チャレンジへの意欲を喚起
するような、身近で目に見える機会(「科学甲子園」、「科学インカレ」)
を充実する。
・ 未来を担う科学・技術関係人財の育成を目指すスーパーサイエンスハ
イスクールを強化するとともに、その成果を広く他の学校にも普及し
ていく取組を進める。
○ また、中学校・高等学校で、理数系の基礎科目の履修を促すとともに、
学部教育において教養教育を充実させ、広く教養としての理数系科目の
習得が進むことが期待される。
○ さらに、次代を担う人財育成の充実に向けた大学の取組も期待される。
・ 大学入試において、学部教育の基礎として必須となる知識習得を促す
科目設定、学生の選択の幅を広げる入試の在り方、国際科学オリンピ
ックでの活躍やスーパーサイエンスハイスクールでの修業成果も含
む総合評価など、各大学の更なる工夫と改善が期待される。
・ 高等学校在学中における大学の自然科学系科目や専門科目の履修な
ど、円滑な高大連携に向けた取組を促進する。
30
4.国際水準の研究環境の形成
(1)大学及び研究開発機関における研究開発環境の整備
① 大学及び研究開発機関における施設・設備の整備
○ 科学・技術の強化のためには、研究開発及び人財育成の基盤となる大学
及び研究開発機関の施設・設備の整備・高度化の促進及び安定的な運用
確保が不可欠である。
○ このため、大学の施設・設備の安定的で効果的な整備、活用を図る。
・ 国立大学法人(大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校を含む。)
において重点的に整備すべき施設等に関する国立大学法人全体の施
設整備の計画を国が策定し、安定的・継続的な整備が可能となるよう
支援の充実を図る。その際、安全(P)な教育研究環境の確保、環境
対策に留意しつつ、イノベーションの創出や高度な人財育成に資する
キャンパス環境、若手研究者や外国人研究者・留学生を惹きつける国
際水準の教育研究環境の形成を目指す。
・ 各国立大学法人は、長期的視野でのキャンパス全体の整備計画を策定
し、経営的視点で施設マネジメントを一層推進することが期待される。
また、寄附や自己収入、長期借入金、PFI(民間資金等活用事業)
など、多様な財源を活用した施設整備が期待されており、税制上の優
遇措置の在り方の検討も含め、これを支援する取組を進める。同時に、
私立大学における研究基盤形成のための施設・設備整備を進める。
・ 国立大学法人の設備の整備計画を踏まえ、研究設備の計画的な整備・
更新や安定的な維持・管理、さらには共同利用・共同研究に供する大
型・最先端の研究設備の整備に関する支援の充実を図る。大学が保有
する研究設備の大学間連携での相互利用や再利用を効果的に行う体
制を整備する。また、設備の保守・運用・整備を行う技術職員の確保
を含む安定的・継続的な支援を行う。
○ 研究開発機関の施設の整備・高度化と共用促進を行う。
・ 研究開発機関は、国家戦略に必要な研究基盤や幅広い研究領域への活
用が期待される先端研究施設・設備の整備・高度化を着実に進める。
また、これらをはじめとする研究開発機関の施設・設備の共用を進め
るため、安定的な運用を確保するとともに、利用者の支援体制を充
実・強化する。共用に際しては、課題の公募・選定の在り方を含め、
成果が期待される研究開発を戦略的に実施するための方策を講じる。
② 大型研究施設・設備の国内及び国際協調による整備・利用
○ 多額の資金を要する科学研究の大型プロジェクトについて、研究領域毎
の研究者コミュニティの議論を踏まえて策定される計画を基本としつ
つ、客観的かつ透明性の高い評価を行った上で、安定的・継続的に推進
31
する。プロジェクト開始後も、中間評価を厳正に行い、その結果に基づ
いて、計画の変更や凍結も含めた不断の見直しを行い、より優先度の高
いプロジェクトへの重点化など資源配分の最適化を図る。
○ 各領域における我が国の研究開発力の国際的な位置付けや、国内におけ
る利用度、社会還元の見込みなどを適切に勘案し、国際協力への参加の
要否や、関与の程度について、慎重に吟味する。
(2)知的基盤の整備
○ 知的創造活動で生み出された成果や収集された研究用材料などの知的
資産を体系化した、バイオリソースや計量基準、先端計測分析機器、デ
ータベースなどの知的基盤の整備、活用を着実に進める。
・ 新たな知的基盤整備計画を策定し、大学や研究開発機関を中核機関と
した知的基盤の整備及び利活用を促進する。利用者ニーズを踏まえた
成果の蓄積、データベース整備・統合及び利活用、既設設備の有効活
用を促し、知的基盤の充実・高度化を図るとともに、知的基盤整備に
関する国際的取組への参画、他国との共同研究、相互利用、標準化な
どを進める。
・ 安定的かつ継続的な知的基盤の進展のため、整備に携わる人財の育
成・確保や整備機関に対するインセンティブ付与の取組を進める。
(3)研究情報基盤の整備
○ 大学、研究開発機関、学会、国立国会図書館など各種図書館における研
究成果の情報発信と流通体制の一層の充実を図るため、情報基盤の強化
と研究情報ネットワーク構築を推進し、科学・技術・イノベーションを
支える強力な研究情報基盤を確立する。
・ 論文等のデータを機関毎に保存・公開する電子アーカイブシステムで
ある機関リポジトリの充実、公的資金による研究成果(論文及び科学
データ)の機関リポジトリや研究データベースにおける公開などによ
り、研究成果へのアクセスの容易化を図る。また、学協会が刊行する
論文誌の電子化、国立国会図書館や大学図書館における文献の電子化
など、人文社会科学も含む研究情報のデジタル化やオープンアクセス
を推進する。
・ デジタル情報資源のネットワーク化、データの標準化などを進めると
ともに、学問領域横断的な統合検索、構造化、知識抽出の自動化に向
けた研究開発を国全体として推進する。また、文献から研究データま
での学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム(「知識イン
フラ」)の展開を図る。このため、必要なガイドラインなど制度面で
の整備を進め、各種データベースをもつ大学及び研究開発機関の協力
と研究データの公開を促進する。
○ 大学は電子ジャーナルの効率的・安定的な購読ができるよう、有効な対
32
応方策を検討することが期待される。また、国はそれを支援する。
5.世界の活力と一体化する国際展開
(1)アジア共通の課題解決に向けた研究開発の推進
○ アジアは、環境、エネルギー、防災、水、食料の確保など、日本が科学・
技術により解決に貢献できる課題を抱えている。こうした共通課題の解
決を目指し、アジア諸国との間で科学・技術協力を強化するため、東ア
ジア共同体構想の一環として、「アジア・サイエンス・テクノロジー・
エリア構想(仮称)」を推進する。ここでは、参加各国が、域外にも開
かれた形で相互互恵的な関係を構築し、共通課題の解決に資する研究開
発を共同で実施するとともに、人財育成や人財交流を促す。またその際
に、日本が強みを持つ研究開発については日本が適切に協力をリードす
る一方で、海外諸地域の特性を活かして実施すべきものについては海外
で推進できるようにする。また、域内の科学・技術水準の向上及びイノ
ベーションの促進を図るため、国際的な研究ファンド設置や大型の共同
プロジェクトの実施についても検討する。
(2)科学・技術外交の新次元の開拓
① 日本の強みを活かす国際展開(P。新成長戦略の議論を踏まえ反映予定。)
② 先端科学・技術に関する国際協力の推進
○ 我が国の科学・技術水準の一層の向上のため、高い科学・技術水準を持
つ諸外国との間で、国際的な幅広い領域での研究ネットワークの充実を
図り、海外の優れた研究資源を活用しつつ、先端科学・技術に関する国
際協力を強力に推進する。
・ 世界で最先端の研究開発能力を有する大学及び研究開発機関におい
ては、海外の研究拠点を活用し、世界の活力と一体となった研究開発
活動の国際展開を図る。この際、現地の優れた外国人及び日本人研究
者の雇用、若手研究者の日本からの派遣、臨床研究など海外諸地域の
特性を活かして実施すべき研究の実施、現地国の競争的研究資金獲得
による研究実施を促進する。
・ 大型施設整備を伴う国際的な大規模プロジェクトや国境を越えた包
括的データ整備により大きく進展する研究開発については、研究者コ
ミュニティの意見を踏まえつつ、協力を進める。我が国が強みを持つ
領域や関心の高いものについては、リーダーシップを発揮できるよう
支援する。
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・ 我が国の経験・優位性を活かし、核不拡散・核セキュリティに係る技
術開発などの国際協力を先導するとともに、我が国にアジアの拠点を
形成し、この領域に貢献する人財を育成する。
③ 地球規模の問題に関する開発途上国との国際協力の推進
○ ODAや輸出金融などの政府資金を活用し、我が国の先進技術による途
上国の課題解決に向けた国際共同研究や人財育成を推進する。この際、
生物多様性の確保など長期的で幅広い視点での課題に留意する。環境・
エネルギー問題における国際エネルギー機関(IEA)、食料問題にお
ける国際連合食糧農業機関(FAO)などの国際機関や、各領域で活躍
するNPOとも連携した効果的な協力を行う。
④ 海外の情報収集・分析の強化
○ 海外での科学・技術に関する国際活動の推進体制を強化する。大学及び
研究開発機関の海外事務所等の拠点について、海外の科学・技術国際戦
略の担い手として、その効果的・効率的な活用を推進する。在外公館と
海外拠点、在外の研究者との情報交換や協力体制を構築し、情報発信と
収集を強化する。
○ 政策の検討に活用するため、海外の情報を継続的・組織的・体系的に収
集・蓄積・分析し、横断的に利用する体制を構築するとともに、これら
に携わる人財育成を進める。
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Ⅴ.これからの新たな政策の展開
1.基本方針
国家を支え新たな強みを生む研究開発を推進し、我が国の科学・技術基礎
体力を強化するため、科学・技術システムの改革を行うとともに、国民・社
会とのつながりを強化するための取組を推進する。また、基本計画を実現す
るための投資目標を明確にする。
2.科学・技術システムの改革
(1)我が国の科学・技術システムの強化
① 研究開発マネジメントの強化(P。研究開発システムWGの議論を反映予
定。)
○ 国の研究開発は、次の各段階を経て実施される。
・ 政策決定段階:国家戦略、科学技術基本政策、各府省個別政策の決定
・ 施策策定段階:政策に沿った具体的施策を各府省が策定
・ 資金配分段階:研究テーマ設定、募集、研究費配分など
・ 研究開発実施段階:研究開発、評価、成果普及など
○ 府省を越えて早期に対応すべき課題
・ 資金配分主体の位置付けの明確化
・ イノベーション創出に向けた「場」の構築
・ 研究開発独法・大学等の機能強化
・ 人財等の基盤の強化
○ 中長期的な取組が必要な課題
② 研究開発独法の制度改革(P。研究開発システムWGの議論を反映予定。)
③ 科学・技術に関するPDCAサイクルの実施
○ 総合科学技術会議は、科学技術基本計画はもとより、自ら定めた科学・
技術・イノベーション政策に関する政策提言の進捗状況を自ら評価する。
このとき、海外のベストプラクティスも勘案した複数の外部機関による
評価を取り入れることも検討する。
○ 研究開発プログラムの評価については、個々の施策レベルではなく、プ
ログラム全体としての目標達成を評価し、その結果がその後のプログラ
ム運営に反映される仕組みを構築する。
○ 科学的根拠(エビデンス)に基づく政策立案の実現に向け、科学・技術
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やイノベーションに関する政策を対象とした先端的研究である「政策の
ための科学」を推進し、評価指標の整備や政策効果の分析手法の確立を
図るとともに、専門人財の層の厚みを確保する。
(2)研究資金の改革
① 研究開発支援機能の強化(P。研究開発システムWGの議論を反映予定。)
② 競争的資金の使用ルールの改善
○ 各府省の競争的資金の使用ルールの統一化及び整理統合等を行い、効率
的かつ柔軟な研究開発の実施を促進する。
○ 全ての競争的資金制度において間接経費 30%措置をできるだけ早期に実
現するとの第3期基本計画の目標を引き続き目指していく。
○ 研究資金の不正使用の防止のため、大学及び研究開発機関は研究資金の
効率的かつ的確な管理・監査体制の整備を進めるとともに、資金配分の
実施主体は各機関の管理・監査体制の状況の確認を徹底する。
○ 研究資金配分の不合理な重複や過度の集中を避けるため、大学及び研究
開発機関は所属研究者のエフォート管理を徹底するとともに、資金配分
の実施主体は「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」を活用し、互
いに連携・協力しつつ、競争的資金を適正かつ効率的に執行する。
③ 公正・透明で質の高い審査・評価体制の整備
○ 公正・透明で質の高い審査・評価が行われるためには、人員や審査時間
の確保が必要である。このため、資金配分の実施主体におけるPD・P
Oの充実・確保及びその権限と役割の明確化など、体制強化を行う。ま
た、評価能力を常に高めるため評価者向けの実務研修を充実させるとと
もに、評価者及び審査員の年齢・性別・所属等の多様性を確保する。不
適切な利益相反を排除するため、評価者及び審査員自体についての評価
システムを整える。また、審査における利害関係者の排除や審査結果の
開示といった透明性の確保を徹底する。
3.国民とともに創り進める科学・技術政策
(1)政策の企画立案・推進への国民参画の促進
○ 科学・技術・イノベーション政策で解決すべき課題や社会ニーズ、科学・
技術の成果が社会に還元される際の課題などについて、広く国民が参画
して議論できる場の形成などの新たな仕組みを整備する。
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○ 国民の政策への積極的参画を促す観点から、例えばNPO法人等による
地域社会での科学・技術コミュニケーション活動や、社会的課題に関す
る調査・分析に係る取組を支援する。
○ 国民が自ら科学・技術の活用や要望について判断できるような情報提供
やリテラシー向上の取組を行う。
(2)科学・技術コミュニケーション活動の推進
○ 国全体から大学及び研究開発機関、研究者、市民まであらゆるレベルで
双方向対話を行う科学・技術コミュニケーションを促進する。専門家の
話を直接聞く場や、科学・技術に関する身近な話題について専門家と意
見交換する場を充実するとともに、大学、研究開発機関、博物館・科学
館・図書館、学協会、NPO法人における科学・技術コミュニケーショ
ン活動を支援する。また、関係者相互の連携や情報交換により、取組を
活性化させる。
○ 科学・技術・イノベーション政策や、それにより得られた成果等を分か
りやすく国民に伝える役割を担う専門人財として、科学・技術コミュニ
ケーターの養成・確保に向けた取組を進めるとともに、社会の多様な場
での活躍を促進する。また、科学・技術コミュニケーションのための良
質な番組や遠隔教育の充実、研究者の意識向上など、質を高める取組を
推進する。
○ 科学・技術情報を含む知的基盤の構築に取り組んでいる国立国会図書館
など公共図書館や、草の根の活動から始まり急速な展開を見せているビ
ジネス支援図書館など各地域の公共図書館の取組とも十分に連携して、
広く国民への科学・技術コミュニケーションを充実させていく。
○ 科学・技術と政策の連携を深めるため、英国で実施されているような国
会議員と研究者のマッチングや、国会議員と研究者の対話の場づくりな
どを推進する。国立国会図書館は国会議員へ必要な情報提供を行うとと
もに、国会議員と研究者をつなぐ場としての役割も果たす。
○ 総合科学技術会議と日本学術会議の連携を深めるため、定期的に意見交
換を行う場を設置する。さらに、日本学術会議や学協会は、社会と研究
者との橋渡しの役割を担い、科学・技術コミュニケーション活動やその
ための人財養成を展開していくことが期待される。
(3)研究情報の分かりやすい形での発信
○ 研究者は、それぞれの研究について、内容や成果を分かりやすく発信す
る取組を進める。例えば、3千万円以上の公的研究費を得た研究者には、
小中学校や市民講座でのレクチャーなどの科学・技術コミュニケーショ
ン活動への貢献を求める。また、公的資金による研究論文は、可能な限
り機関リポジトリに登録することとし、その際には、一般向けにも分か
りやすい数百字程度の説明を添付する。
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○ アウトリーチ活動の普及・定着を図るため、大学の組織的な取組を支援
するとともに、研究者等のアウトリーチ活動への参画が業績評価に反映
されるようにすることが求められる。
(4)倫理的・法的・社会的課題への取組
○ 倫理的・法的・社会的課題への取組を促進するため、研究資金制度の目
的や特性等に応じて、これらの課題対応に研究資金の一部を充当する制
度設計を検討する。
○ 研究開発の発展段階に応じて、科学・技術が社会・国民に与える影響に
ついて調査分析・評価を行うための活動(テクノロジーアセスメント)
の在り方について検討する。また、政策などの意志決定に際して、テク
ノロジーアセスメントに基づいた幅広い国民合意への取組とともに、社
会と科学・技術・イノベーションとの関わりについて専門知識を持つ人
財の育成・確保に向けた取組を進める。
4.研究開発投資の強化
○ 新成長戦略に掲げられた「2020 年度までに、官民合わせた研究開発投資
のGDP比4%以上」を実現する。
○ (P)政府研究開発投資のGDP比○%
○ 民間研究開発投資の誘発促進を図ることとし、そのための政策手段につ
いて、規制・制度の合理的な見直し、税制措置の在り方を含め、検討す
る。
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